2021年9月27日に日本特殊陶業(5334)が業績の上方修正を発表しましたので、その業績内容を詳しく解説します。
まず第1章は企業概要です。
昨日の業績修正の内容だけを知りたい方は、飛ばして第2章から読み進めても良いですし、事業内容も含め確認するなら1章も合わせて読み進めていくことをお勧めします。
目次
日本特殊陶業ってどんな会社?
本日は日本特殊陶業(5334) をご紹介します。
日本特殊陶業(にっぽん・とくしゅ・とうぎょう)
名前が読みづらいですよね。
そもそも陶業って何?
陶磁器を製造する工業。製陶業は大別して飲食器、置物などの生活用陶磁器と、衛生陶器、タイルなどの建築用陶磁器、そして碍子(がいし)などの工業用陶磁器に分類される。とくに近年、ファイン・セラミックス(ニューセラミックス)とよばれる電子工業用特殊磁器部門の発展は著しい。(コトバンクより抜粋)
トイレの便器や洗面台を思い浮かべたら分かりやすいですね。
ちなみに便器や洗面台の有名なメーカーはTOTOです。皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。TOTOは「東洋陶器(Toyo Toki)」の略称です。
日本特殊陶業は、1936年にプラグメーカーとして創立した世界を代表する総合セラミックスメーカーです。
プラグの素子であるセラミックス開発技術をベースに、ニューセラミック製品の研究開発を開始しました。特に強い分野はスパークプラグと排ガスセンサーです。
スパークプラグとは
スパークプラグは、ガソリン車には必ずついています。車はガソリンを燃焼させて走りますが、スパークプラグは燃焼させるための点火の役割を果たしています。
言うならばライター的役割です。そのため点火プラグとも呼ばれます。
車のエンジンはよく「車の心臓」にたとえられますが、エンジンを発火させるスパークプラグは「エンジンの中の心臓」ともいえ、スパークプラグが正常なコンディションを保っていることが重要だとわかります。
同社はスパークプラグを初めて国産化し、今では世界シェア No.1です。
排ガスセンサ(酸素センサー)とは
日本特殊陶業のもう一つの収益柱が排ガスセンサーです。
酸素センサーはO2センサーとも呼ばれています。
自動車の排気ガス浄化システムの中枢部品として使われ、主に排気ガスのクリーン化や省燃費に貢献しています。
自動車内の激しい温度変化でも早く正確にセン シングすることを可能とする独自技術により、厳しい排気ガス規制に適応することができます。
こちらも世界シェアNo.1です。
世界的にCO2を削減していこうとする潮流で、各国が排ガスを削減する動きは今後一層強まるとみられ、排ガスセンサーで世界シェアを保持する同社にとっては成長が期待できる事業と言えるでしょう。
次世代の新規事業 ーSOFC(固体酸化物形燃料電池)ー
燃料電池は、水素と酸素の電気化学反応により電気エネルギーを取り出す発電装置の一種ですが、特に注目されているのが固体酸化物形燃料電池(SOFC)です。
これはセラミックスから構成される燃料電池で、600~1000℃という高い発電温度が特徴です。
この発電効率の高さから、次世代分散型クリーンエネルギーシステムとして、近い将来、急速な普及が期待されています。
同社の森村SOFC テクノロジーでは平板型セルスタックを、CECYLLSでは円筒型セルスタックを製造しており、水素社会に向けて開発を進めています。
2022 年3月期第2四半期(累計)連結業績予想の修正
「2022 年3月期第2四半期(累計)連結業績予想の修正に関するお知らせ 」
2021年9月27日に、同社より業績修正の発表がありましたので、その内容を解説していきましょう。
売上収益 | 営業利益 | 税引前 四半期利益 |
親会社の所有者に帰属する 四半期利益 |
基本的1株当たり 四半期利益 | |
前回発表予想(A) | 239,000 | 23,048 | 23,448 | 17,248 | 84.78 |
今回修正予想(B) | 239,000 | 31,000 | 30,000 | 22,000 | 108.15 |
増減額(B-A) |
ー |
7,952 | 6,552 | 4,752 | ー |
増減率(%) | ー | 34.5 | 27.9 | 27.6 | ー |
(ご参考) 前期第2四半期 実績 (2021 年3月期第2四半期) |
189,490 | 16,754 | 16,622 | 12,459 | 61.25 |
為替の安定
これは大きな要因の一つです。
同社は年間の為替見通しを107円で想定していますが、直近半年ほどは110円近辺で安定していることから為替利益が出ていることが考えられます。
特に同社の売上収益の特徴として、海外売上比率が80%を超えていることから為替の円安はダイレクトに収益を押し上げることは容易に想像され、110円程度で安定的に推移していたことは大きなプラス要因です。
経営陣の保守的な営業利益予想
第1四半期は前年同期比に比べ大きく数字が伸びました。
しかし、これは今年度の収益が伸びたことより、コロナ禍のマイナス影響から通常モードに回復してきたことで、大きく回復したかのように見えたにすぎません。
未だに世界では新型コロナ感染拡大の収束の気配を見せていない中で、この第2四半期も引き続き業績を好調に保ち続けれるかどうかは第1四半期終了時点では微妙でした。
現に四半期ベースでの売上収益を過去1年間振り返ってみると、売上収益はほぼ横ばいで推移しており、ちょっとした外部環境の変化で減収になる可能性も含んでいたからです。
その中で7月30日の決算発表時点で、第2四半期も第1四半期と同程度の売上が続くと経営陣は見込んでいたのでしょう。
すると、疑問が出てきます。
第1四半期で118,544 (百万円)の売上収益に対して、17,296 (百万円)の営業収益をあげたにも関わらず、第1、第2四半期合わせての売上収益を239,000(百万円)に対して、営業利益を34,000(百万円)と予想としなかった。
営業利益予想を23,048(百万円)にしか見込んでいなかったのは、そもそものこの営業利益予想がかなり保守的だったと捉えることができます。
もちろん為替の不確定要因がありますし、予想よりも実際の数字が悪ければ、外国人投資家や機関投資家からマイナスの評価を受けて、株価にも悪影響を与えかねませんから、経営陣としては、ある程度保守的にならざるを得なかったのでしょうし、それが経営判断だと考えます。
売上収益を予想通りに着地させたのは評価
営業利益の予想が保守的だった一方で、売上収益を減らさなかったことはプラス評価です。
第2四半期の終了まであと数日となった9月27日に業績修正の発表が行われたことを踏まえると、発表の数字はほぼ実態値と言えるでしょう。そして営業利益については多少バッファ(上振れ余地)を残しているかもしれません。
今回、かなり早い時期に営業利益および純利益が大幅に増加していることを経営陣は掴んでいたと思いますが、売上収益予想の239,000 (百万円)を達成できるかどうかが微妙だったため、達成確実の青信号が灯るまでは業績上方修正の発表できなかったのでしょう。
仮に減収増益だった場合、片手落ちの印象を投資家に与え、増益のインパクトは半減されますので、その意味において、この239,000(百万円)の売上収益を何が何でも達成した同社の粘り強さは、価値があると思います。
また配当性向も40%目安で、増配の可能性も出てきたこともプラス評価です。
今後は、横ばいの売上収益をいかに右肩上がりに増加させていくかが課題です。そのためには自動車関連に位置づけされているプラグとセンサの売上を伸ばしていくこと、これが重要です。