2021年3月4日更新
菅首相は、所信表明演説で、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを2050年までに達成するとの新たな目標を打ち出しました。これにより2050年までに2013年度比で温室効果ガスを80%削減する長期目標を事実上修正した格好となりました。
また、昨年12月には世界各国の首脳らによってオンライン開催された「気候野心サミット」に菅首相がビデオメッセージを寄せ、世界の脱炭素移行に向けて、官民合わせて1.3兆円の支援を行うと発表しました。
目次
経済産業省の取り組み
菅首相の意向を踏まえ、経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。
この戦略では、菅政権が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策としており、当ブログではこれに関連している注目企業も含め詳しく解説していきます。
そもそも政府の役割とは何か?
それは、民間企業がこうした取り組みに果敢に挑戦できる環境を整えることです。
そのためには、可能な限り具体的な見通しを示し、高い目標を掲げなければなりません。こうして導き出された、成長が期待される産業を14分野に選定し、今後あらゆる政策を総動員していく方針です。つまり予算、税、規制改革・標準化、国際連携を積極的に政策に盛り込んで実行していくことになります。
その14の重要分野は以下の通りです。
エネルギー関連産業
①洋上風力産業・・・風車本体・部品・浮体式風力
②燃料アンモニア産業・・・発電用バーナー (水素社会に向けた移行期の燃料)
③水素産業・・・発電タービン・水素還元製鉄・ 運搬船・水電解装置
④原子力産業・・・SMR・水素製造原子力
輸送・製造関連産業
⑤自動車・蓄電池産業・・・EV・FCV・次世代電池
⑥半導体・情報通信産業・・・データセンター・省エネ半導体 (需要サイドの効率化)
⑦船舶産業・・・燃料電池船・ EV船・ガス燃料船等 (水素・アンモニア等)
⑧物流・人流・ 土木インフラ産業・・・スマート交通・物流用ドローン・FC建機
⑨食料・農林水産業・・・スマート農業・高層建築物木造化・ ブルーカーボン
⑩航空機産業・・・ハイブリット化・水素航空機
⑪カーボンリサイクル産業・・・コンクリート・バイオ燃料・ プラスチック原料
家庭・オフィス関連産業
⑫住宅・建築物産業/ 次世代型太陽光産業・・・ペロブスカイト
⑬資源循環関連産業・・・バイオ素材・再生材・廃棄物発電
⑭ライフスタイル関連産業・・・地域の脱炭素化ビジネス
電力部門の脱炭素化が大前提
政府の脱炭素化への取り組みにおいて、電力部門の脱炭素化は大前提となっています。なぜなら、CO2の部門別排出割合は、電力部門が37%と非常に多く、同部門の取り組みなしではカーボンニュートラルの実現は到底できないからです。
具体的な「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」として、電力部門では、以下のような取り組みが検討されています。
- 再生エネルギーの導入
再生エネルギーについては、洋上風力など最大限の導入を図るとのことです。 しかしながら、全ての電力需要を100%再生エネルギーで賄うことは困難であり、2050年に発電量の約50~60%を再生エネルギーで賄うことが想定されています。ちなみに世界最大規模の洋上風力を有する英国の意欲的なシナリオでも約65%を想定されています。 - CO2回収前提の火力発電
依然、開発・実証段階の技術であり、今後の技術・産業の確立状況次第といった状況です。順調に技術・産業の確立進むことを前提として、原子力・CO2回収 前提の火力発電30~40%程度と想定されています。
- 水素発電
選択肢として最大限追求。供給量・需要量の拡大、インフラ整備、コスト低減。 ➔ 水素産業を創出 - 原子力
確立した技術で安全性を向上させ、可能な限り依存度は低減しつつも、引き続き最大限活用することが求められています。安全性に優れた次世代炉の開発も課題となってきます。
電力部門以外では「電化」や「蓄電」の促進
電力需要は、産業・運輸・家庭部門の電化によって現状より30~50%増加すると見込まれています。そのため、政府は省エネ関連産業を成長分野にしようと考えています。
産業 ・・・ 水素還元製鉄など製造プロセスの変革
運輸 ・・・ 電動化、バイオ燃料、水素燃料
業務・家庭 ・・・ 電化、水素化、蓄電池活用
➜ 水素産業、自動車・蓄電池産業、運輸関連産業、住宅産業を成長分野に
カーボンニュートラルとは、すなわち電化社会です。政府がこの電化社会の実現に向けて、強靱なデジタルインフラが必須としており、半導体・情報通信産業も成長分野として捉えています。
電力 ・・・ スマートグリッド(系統運用)、太陽光・風力の需給調整、インフラの保守・点検等
輸送 ・・・ 自動運行(車、ドローン、航空機、鉄道)
工場 ・・・ 製造自動化(FA、ロボット等)
業務・家庭 ・・・ スマートハウス(再エネ+蓄電)、サービスロボット等
これらの戦略により、2030年で年額90兆円、2050年で年額190兆円程度の 経済効果が見込まれています。
グリーン成長戦略の枠組み
政府は今回の「グリーン成長戦略」を長期的なテーマとして、強烈に推進しようと取り組んでいます。
企業の現預金240兆円を投資に向かわせるため、意欲的な目標を設定し、予算、税、規制・標準化、民間の資金誘導などの政策ツールを総動員させています。また、グローバル市場や世界のESG投資(3,000兆円)を意識し、国際連携も図られるでしょう。
2050年カーボンニュートラルを見据えた技術開発から足下の設備投資まで、企業ニーズをカバー。 規制改革、標準化、金融市場を通じた需要創出と民間投資拡大を通じた価格低減に政策の重点を置いています。
・予算 高い目標を目指した、長期にわたる技術の開発・実証を、2兆円の基金で支援
・税 黒字企業: 投資促進税制、研究開発促進税制、 赤字企業: 繰越欠損金
・規制改革 水素ステーション、系統利用ルール、ガソリン自動車、CO2配慮公共調達
・規格・標準化 急速充電、バイオジェット燃料、浮体式風力の安全基準
・民間の資金誘導 情報開示・評価の基準など金融市場のルールづくり
成長が期待できる注目の企業
【水素関連銘柄】
「炭素」に依存した世の中から脱却するには「水素」が不可欠との認識が深まっており、株式市場でも「水素」や「燃料電池」に関連した銘柄が脚光を浴びつつあります。
・岩谷産業(8088)
主要のLPガス事業だけでなく水素事業にも力を入れており、水素エネルギー需要創出のため「水素ステーション」の整備に取り組んでいます。
・宮入バルブ製作所(6495)
老舗のバルブメーカーで、今後、LNG(液化天然ガス)や液体水素の設備で使用される極低温バルブ類の開発・販売に注力していく方針を示しています。
【蓄電池関連銘柄】
脱炭素の鍵となる電化にどうしても必要なのが蓄電池です。電気自動車や再生可能エネルギーの普及に必要な低コストの蓄電池を開発を手掛ける企業が注目です。
・ニチコン(6996)
12kWh単機能蓄電システムの新製品を販売開始。ゲリラ豪雨や台風などの災害時の停電に、気象警報情報に基づいて自動で対応し、蓄電システムを満充電にして備えることができる。
・古河電池(6937)
古河電池と古河電工が、実用化困難とされていた次世代型蓄電池「バイポーラ型蓄電池」を共同開発したと発表し、サプライズとなっている。「バイポーラ型蓄電池」は、1枚の電極基板の表と裏にそれぞれ正極と負極を有するシンプルな構造が特徴で、材料削減が可能であり、体積当たりの容量の向上により重量エネルギー密度は従来の鉛蓄電池の約2倍となる。
【再生可能エネルギー関連銘柄】
排出した二酸化炭素も、いわゆるカーボンリサイクルの技術を使って、プラスチックや燃料として再利用をします。これらを政府が率先して支援することで、民間投資を後押しし、240兆円の現預金の活用を促し、ひいては3000兆円とも言われる世界中の環境関連の投資資金を我が国に呼び込み、雇用と成長を生み出します。
・エヌエフホールディングス(6864)
再生可能エネルギー関連のコア銘柄で、家庭用蓄電システムや電力インフラを支える特殊電源機器など、社会の電力環境を支える製品・ソリューションを提供しています。
・ウエストホールディングス(1407)
企業や自治体における再生可能エネルギーの導入ニーズが高まってくることが想定される中、太陽光発電のEPC(設備一括請負)事業を中心に積極的に事業を展開しています。
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